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奈良地方裁判所 昭和52年(行ウ)6号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二各年分売上金額について

1 昭和四六、四七年分に関する推計の必要性について

<証拠>によれば、原告は肩書地においてインテリアカミヤの名称でフランスベッド並びにカーペット、カーテン及びその他のインテリア用品を販売するいわゆる白色申告者であるが、昭和四六、四七年分所得については仕入、売上及び所得金額を確定するに足る帳簿・日計表等の類を一切備えておらず、一部領収書等を保管していたに止まるほか被告職員による税務調査の段階から審査請求に至るまで右各年分売上金額、所得等を把握するに足る資料を何ら提出、提示しなかつたこと、このため被告としては原告提出にかかる確定申告書の記載の正確性を検討するための資料を原告からは何ら入手することができなかつたことが認められ右認定に反する証拠はない。従つてそのような事態に接し、已むを得ず仕入先に対する反面調査等によつて資料を収集し、これによつて把握された各年分仕入金額から後記2(二)、(三)の推計方法を用いて原告の売上及び所得金額を推計し、これに基づいて行なわれた本件更正処分は右推計の必要性を十分に肯定することができるものというべきである。

2 推計の合理性について

(一) 当年分仕入金額から同年分売上金額を推計する方法について

一般にある年分の仕入金額から対応年分の売上金額を推計する方法は、当該年に仕入れた商品が同年中にすべて売却し尽せる場合もしくは売れ残り(次年に繰り越される棚卸高)が殆んで無視しうる場合又は各年の期首及び期末棚卸高にほぼ変動がない場合でない限り、合理性(正確性)を有する推計方法ということができない。そこで本件につき右前提が存在するか否かを検討するに、前掲各証拠によれば、原告は昭和四三年にインテリア販売を開始したものであり、毎年仕入品の中には売れ残りが生ずることは認められるが他方販売商品等に変動があるとか、事業規模を急激に拡大・縮小したとか各年毎の売れ行きに著しい差異を生じたなどの事実を認めることができず、各年の期首及び期末棚卸高に著しい変動を生じたことについては結局主張・立証がない。また前記のとおり原告は仕入元帳、売上台帳等を一切備えておらず、もしくはこれを提出しないため、各年の右期首、期末棚卸高を正確に把握することは不可能であることが認められる。そうすると各年の期首、期末棚卸高を一定と看做し、前記方法によつて売上を推計した推計方法は唯一の可能な推計方法であり、また原告の業種から判断して前記前提をとることも不合理であると認めることはできないから、この方法により売上推計を行なうことに充分な合理性があるものということができる。

(二) ベッド以外のインテリア用品の売上推計について

<証拠>を総合すれば以下の事実を認めることができる。

被告担当職員及び被告指定代理人らは、昭和四六、四七各年分につき原告の仕入先に対し仕入金額の反面調査を行なつたが、売上金額については原告申立のほかこれを確定するに足る資料を何ら得ることができなかつたため、類似同業者の売上原価率をもつて原告の右各年分売上金額を推計することとした。そうして大阪国税局長は右目的のため昭和五三年五月一二日付をもって奈良、葛城、桜井及び吉野の各税務署長に対し、通達を発し、①室内装飾業者で右各年分所得税につき青色申告決算書を提出しているもの、②仕入金額がいずれの年も四〇〇万円ないし二、〇〇〇万円であるものの二条件に該当する業者を抽出したうえ同人作成にかかる所得税青色申告決算書を提出するよう求めたところ、右①、②のいずれにも該当する同業者は奈良税務署管内に営業所(住所)を有する一業者のみであつた。そこで被告指定代理人が右同業者の営業所に臨み、原告との類似性を調査したところ、右同業者の営業地は原告と同じ奈良市中西部であり、販売商品はインテリア用品のみでベッドは販売していない点で原告と異なつてはいたがその他店舗面積、従業員数、仕入金額、主な顧客、販売方法、運搬用車輛など別表7記載のとおり原告とかなりの類似性を有する業者であることが判明したため、同人の青色申告決算書に記載された仕入金額と売上金額から前記各年分売上原価率(昭和四七年分は仕入金額六七〇万二、二五五円、売上金額一、一〇三万五、六四七円で売上原価率は60.73パーセント、昭和四六年分は仕入金額五〇八万一、九一九円、売上金額は七八二万〇、〇七七円で売上原価率は64.98パーセント)を算出し(原告に有利に一パーセント未満を切上げて昭和四六年分売上原価率を六五パーセント、同四七年分を六一パーセントとした。)、ベッド以外のインテリア用品の各年分仕入金額を右各同業者売上原価率で除した金額をもつて原告の各年分ベッド以外のインテリア用品売上金額と推計したこと、

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。そこで右推計の合理性につき検討する。

まず原告は、比準の基礎となつた各年分青色申告決算書(乙第三〇号証の二、三枚目)は、同業者の住所・氏名部分が隠ぺいされており、この点で作成の真正が疑わしいほかそうでないとしても信憑性は乏しい旨主張する。なるほど右乙号証の記載自体からは作成名義が明らかでなく右書証の成立の真偽は不明というほかないが、書証の成立はいわゆる補助的事実であるから他の証拠によつてもこれを認定することができるところ、<証拠>によれば、乙第三〇号証の二、三枚目は前記認定の経過によつて抽出された同業者の作成・提出にかかる昭和四六、四七年分青色申告決算書の写しであり、同人の営業上の秘密保持の見地から住所、営業所及び氏名又は商号部分を隠ぺいしたものであることが認められ、これらの経緯に照らせば右書証の真正な成立を優に認めることができるものというべきである。また右書証は所得税法一四八条により帳簿書類の備え付けが義務づけられ、取引を正確に記録したうえ右記録に基づいて仕入、売上及び経費を計算して申告された青色申告決算書であり、その記載内容は一応正確なものであることが推定されるから、これにつき疑を容れるべき特段の事情があれば格別、その点につき何らの主張・立証がない本件については、右記載内容についても信憑性があるものというべきである。

次に比準同業者数がわずか一件にすぎないことと同業者率による推計の合理性につき検討する。一般に同業者率の適用による推計については比準同業者数が多いほど、得られる同業者率には普遍性・合理性が認められ、逆に比準同業者数が少ないときはこれによつて得られる同業者率には対象となつた同業者の営業上の個性が現われる結果、普遍性・合理性が乏しいものということができる。ことに正確な資料を有する同業者がわずか一件にすぎないような場合には、右同業者率の適用による推計は一般的に普遍性の担保を欠き推計の十分な裏付を欠くことが多いといわざるを得ない。しかしながらこのような場合、同業者率は同業者一般の普遍的平均値としてではなく原告の営業の近似値として適用されるものであるから、右近似値による推計を合理的ならしめる程度に原告と比準とされた同業者との類似性(立地条件、営業面積、店内設備、従業員数、販売品目、販売価格及び仕入金額等、直接営業実績に関連を有する客観的な基礎事実の類似性)が立証されれば、これをもつて推計の基礎となしうるものというべきであり、反面、原告は比準同業者と自己との差異、個別的事情等を前記観点から具体的に主張・立証することによつて右同業者率による推計の合理性を争うことができるものと解せられる。

これを本件についてみるに、前記認定のとおり原告と比準同業者は別表7記載のとおり概略の営業場所(立地条件については全証拠によつてもこれを認めるに足る証拠はない。)、販売品目(今問題となつているのはベッド以外のインテリア用品の売上推計であるから、原告がベッドをともに販売していることは考慮の外に置いてよい。)顧客、店舗面積、仕入金額、従業員、運搬用車輛及び営業年数等いずれの点においても極めて類似していることが認められる(なお右比較の対象となつた各点につき原告のそれについては直接これを認めるに足る証拠がないものも存するが、原告は右類似性につき明らかに争わないので、被告主張のとおりであると認められる)。従つて右同業者の青色申告決算書に記載された各年分の仕入金額と売上金額から各年分売上原価率を算出し、これを原告の各年分仕入金額に適用して売上金額を推計した被告の本件推計には一応の合理性を認めることができ、原告のベッド以外のインテリア用品の売上金額は、昭和四六年分一、〇四六万三、五六七円、同四七年分九四八万一、三九八円と認めるのが相当である。

原告は、売上金額の推計は、被告調査により判明している各仕入先毎の仕切率と仕入金額からまず定価を算出したうえ、これに仕入先商品毎の値引率を乗じて得られた売上金額を合算する方法によるべき旨主張する。しかしながら右方法による推計にあたつては値引率の正確性こそが推計の合理性を、担保するものというべきところ、原告は単に自己の記憶に基づき、仕入先によつて特定される商品一般につき漠然と平均的値引率を述べるに止まり、その他に右値引率の正確性を立証するに足る何らの資料も有していない。一方、前記同業者率による推計は、原告と同様(ただし、値引率は不明)値引販売を行なつていることも容易に推測される同業者の正確な売上金額を基礎としており、これによつて算出された売上原価率はすでに値引販売をも考慮に容れた数値であることが明白であるから、原告が通常同業者間で行なわれている以上の値引販売を行なつているとの事実の立証がない以上、右同業者率による推計には原告主張の推計方法に比較してより合理性があるものと認められる。

(三) 仕切率によるベッドの売上金額の推計について

被告はフランスベッド株式会社からの仕入商品(主としてベッド)の売上につき、同社からの仕切率六八パーセントを適用して推計を行なつているので右推計の合理性につき検討する。一般に仕切率(仕入原価の販売定価に対する割合)で仕入金額を除した数値は仕入商品の販売定価となることが明らかであるから、右金額をもつて売上金額と推計するためには定価販売を行なつているとの前提事実の立証が不可欠である。しかしながら、右事実については全証拠によつてもこれを認めるに足る証拠はなく、かえつて<証拠>によれば、原告は夏冬のボーナス時期等に大売出しを行ない、フランスベッドをすべて三割引で販売することがあつたほか、そのような際には特に目玉商品をもうけ、約二〇ないし三〇パーセントの値引販売を行なつていた事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。そうすると、被告の推計は、現実に値引販売を行なつていたのに常に定価販売を行なつていたことを前提として売上金額の推計をした点で値引分に相当する金額だけ売上金額を過大に認定した誤りがあり、推計の合理性を肯定することができないものといわざるを得ない。尤も、原告の売上金額は、被告の推計金額から右値引分を控除した金額となることが明らかであるからこの点の修正によつて推計の合理性が取得されるということができる。そこで右値引率につき検討する。右値引率に関係する証拠としては前掲原告本人尋問中の供述と前掲甲第二号証の一、二、同三号証(係争年分の大売出の際のチラシ)が存するのみであるが、今、右チラシに記載された大売出時の値引率を商品の個性、価格等を捨象して単純平均すると別表10記載のとおり昭和四六年分値引率は27.25パーセント、同四七年分は20.33パーセントとなる。ところで右数値は大売出時のそれであり、また値引販売にかかる商品も、一回を除いてごく一部であることを考慮すると、全商品につき年間を通じた年間平均値引率が右割合をこえることはあり得ず、むしろ経験則上右年間平均割引率は右数値を下まわることが合理的に推認され、原告本人尋問の結果中右推認に反する部分は措信し難く採用しない。そうして原告の主張と経験則を勘案すれば、ベッドの年間平均値引率は多くとも一五パーセントを超えないものと認められるから、被告主張金額から右一五パーセントの値引分を控除した金額すなわち昭和四六年分二八七万三、四七八円、同四七年分三七四万五、五五九円をもつて原告のベッドの売上金額と認めるのが相当である。

以上から原告の右各年分売上金額は昭和四六年分一、三三三万七、〇四五円、同四七年分一、三二二万六、九五七円となる。

(仲江利政 山田賢 三代川俊一郎)

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